私の人形を見た方から「関原さんの人形はまるで生きているようだ」と言って頂くことがあります。私は衣装を着せた女性の人形を主に作っておりますので、ただ美しいだけでなく、女性の情感を見る人に訴えるような人形を作りたいといつも願っております。ですから「生きているようだ」と言って頂くと実にうれしく、有難く思います。
テレビで「舞踊に見る女性の愛のしぐさ」という番組が放映されました。その中で特に心に残っている言葉があります。上方舞の名手山村楽正さんがこう言っておられました。「舞で女の情を表現する時。胸を動かさずに、おちちを動かす」と。これを聞いて、そういうはっきり表に表れないような細かい体の動かし方を工夫しておられるからこそ、地唄舞の内に込められた女の情念というか恋慕や愛憎の入り混じった複雑な女心が見る人の心を打つのだと、私はとても感心致しました。
また、文楽の吉田蓑助さんが、「女の人形におじぎをさす時は、首と同時に肩を動かすと色気が出る」と言っておられるのを聞いて、これもなるほどなあと思いました。私は着物を着た日本女性の美しさを人形で表現したいと思い、日本舞踊や文楽なども出来るだけ見るようにしております。一流の方々の舞踊を拝見していますと、頭首手足はもちろんのこと、胸も胴も腰も、肉体のあらゆる部分すべてが一体となって動き、その体全体で表現されるなめらかな何とも言えない美しい動きが見る者に感動を与えるように思えるのです。
人形も同じことで、頭手足だけでなく体全体で動いているように作らなければ、決して生きているようには見えないと思います。
どうしたらそのように出来るのかといつも考え続け、苦心しているところです。私の作る人形を見れば心が和み、悩む心も慰められるような人形を作りたいと願いながら精進して参ります。


Profile SEKIHARA SHISUI 
京人形師 関原紫水 (せきはら・しすい)
 

1921年   神戸市葺合区に生まれる。

1949年   京都へ移住。幼少より念願であった人形制作を始める

1973年 伝統工芸技術コンクール毎回入選(優勝2回、佳賞4回受賞)

1986年   伝統産業優秀技術者として京都府知事表彰を受ける。

1989年   伝統工芸士の認定を受ける。

1990年   京人形伝統工芸士会が結成され、初代会長に就任する。

1991年   近畿通商産業局長賞を受ける

1992年   個展(大阪・大丸梅田店美術画廊)

1993年   個展(広島・福屋八丁堀本店美術画廊)

1995年   「京都伝統工芸展」出品(オーストラリア)
国立京都国際会館にて実演と展示会開催

1996年   個展(ホテルフジタ京都)

1997年   石清水八幡宮清峯殿にて展示会開催(毎年12月初旬より翌年2月末日迄)

1998年   人形作家11 人と共に「京舞妓人形展」(大丸心斎橋店、新宿 三越、千葉三越)

2000年   個展(東京・京王プラザホテルギャラリー)

2004年   春の叙勲にて瑞宝単光章受賞

2005年   「和人形の世界展」出品(日本橋三越本店)

2006年   「琳派百図展」出品

2007年   「輝ける京の伝統工芸展」出品(高島屋日本橋店)

2008年   作品集出版記念展(高島屋京都店)

2009年   1月 タイ王室に人形献上
3月 パリ展示会出品
7月 オーストリア・ザルツブルグ博物館人形展に出品

2010年   1月 パリ三越エトワール展示会出品
2月 イタリア・ドゥカーレ宮殿展示会に出品
6月 上海図書館開館に「關原紫水・京人形作品集」が収蔵
12月 上海市・呉昌碩記念館に關原作京人形「熊野」が収蔵

2011年   1月 パリ三越エトワール最終展示会に出品
2月 横浜人形の家にて「關原紫水&紫光 京人形展」開催


 私は幼い頃から京人形師の父を見て育ちました。中学になる頃までは両親は結髪職人として朝から晩まで人形の髪を結っていました。私も学校が終わると家の手伝いをして、人形の髪の植え付けをしたり、下仕事をして、その手間賃を小遣いにしていました。休みの日は一日中、学校のある日は夜に家族で会話を楽しみながら一緒に仕事をしていました。
いつも、父は「お金が無い」が口癖で、職人としての生活は楽では無かったようでした。
ですから、「この仕事は、お父ちゃんだけで終わりや。でも、お父ちゃんは生まれ変わって、また人形作りをするんや」と言っていました。子供心にも生まれ変わってもやりたい仕事をしている父は幸せな人だなぁ…と思っていました。
衣装人形が売れなくなり結髪の仕事が減ってきて生活が出来なくなりかけた時に衣装や胴体も自分で作る完成品の制作に転向する事ができたのです。生活は苦しいけれど自分の仕事を愛し生きがいを持つ父の後姿を見て育った御陰で、私は、仕事は楽しいもの、喜んでするもの、という考え方を持ちました。
高校を出て三菱銀行に就職しても、父から学んだ考え方のおかげで楽しく仕事に取り組む事が出来ました。結婚して子供を産み、しばらくは人形と離れた生活をしていましたが、運命に引き寄せられるように、また人形に関わる事になりました。父の人形作りの手伝いが出来ればいい…自分が人形師になる事は考えていませんでした。ですから、私は外交、父は作る人、それで良いと思って活動してきました。でも、そんな私が人形を通して出会った方々に励まされ、導いて頂いたおかげで「自分も人形を作りたい!人形に人生をかけたい!」と決意し、自分の生活を支えるためにしていた仕事を辞め、人形一筋に打ち込むことにしました。
私は多くの方々に助けられ、人形に助けられ、今ここに生かされています。人形作りに深く関わるほど、自分の無知と未熟さが分かり遠く厳しい道を選んだことを思い知らされます。でも、私も人形作りが好きです。生涯、人形を作って生きたいと思っています。一人でも多くの方に人形を見て頂き、日本の伝統工芸である京人形を通して、日本の文化の素晴らしさを伝えていく一人になりたいと願っています。


Profile SEKIHARA SHIKO
京人形師 関原紫光 (せきはら・しこう

 

1993年   父、關原紫水の後継者として京都府の
「京もの工芸品の技術後継者」に認定される

1995年   女性初の京人形商工業協同組合青年会会長に就任

1996年   京都青年中央会理事に就任

1998年   伝統工芸士の認定を受ける

1999年   石清水八幡宮展示会など關原紫水と共に展示会を開催

2004年   「NHKドラマ「恋する京都」制作指導、出演

2007年   紫光作「京羽子板」京都府の海外贈呈品に選ばれる

2009年   3月パリ・ル・グランホテルでの展示会に出品
7月オーストリア・ザルツブルク博物館展示会に出品

2010年   1月パリ三越エトワール展示会に出品
2月イタリア・ジェノバ・ドゥカーレ宮殿展示会に出品

2011年   1月パリ三越エトワール展示会2回目の出品
2月横浜人形の家「關原紫水&紫光 京人形展」開催

2012年   上海芸術礼品博物館「日中韓著名芸術家作品展」に
紫光作「雪」出品。開幕式典に来賓として招待される

2013年   紫織庵(京都市指定有形文化財)で紫光単独の個展開催

2015年   稲盛財団による米国ケースウエスタンリザーブ大学の
稲盛倫理賞の授賞者副賞に紫光作「祝賀」が選ばれる


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